2017.10
しづかに怒れ
小田原漂情
言(こと)を無み寂びゆく国とせぬために言を織りゆくはたおりたらむ
分かたれて道を毀ちしとつくにのためしを思ふこの秋の陣
さなきだにまつりごととは禍々し片ほほのみを擲つにあらずや
三たび目の分去(わかさ)れならむ明治より生きよかの日も直ぐなりし国
二十年かへり見るだに滾(たぎ)つかも我が国つ民よしづかに怒れ
2016.3
帰 郷
小田原漂情
阿夫利根を仰ぎし日々ぞはるばるとわが歌の根に連なりて在る
片峠見放くる尾根をたどり来て風に吹かるる春彼岸かも
主なきふるき医院の玄関に肖像画あり笑みをこぼせる
天竜の流れに沿ひてひねもすを汽車にゆられつ客人として
少年のこころは遠しいつしかにけふに親しむわれとはなれり
旅といふ心さぶしき道の辺に手をのべくるる道祖神あり
山を穿ち谷を縫ひ来てたどり着きし中部天竜 きみは待ち呉るる
思ひ出づることのこもごもおほかたはおのれを恥づることと言へども
田の中に道はありけり五月女のすがた恋ほしき名倉のあたり
烈しくも手筒をいだく若衆と酌みかはすとき三河ははろか
( web頌9号より転載)