美し言の葉~について


ご挨拶の欄で、「美し言の葉」とは美しい言葉の意、と簡単に述べました。

しかし古典をも含めて広く考察する文学サロンですから、もっと詳細にご説明する必要があると考え、ひとつの解説を試みます。

 

 古語辞典によると、「うまし」には、旨し、甘し、美し、味し、の漢字が充てられ、「ク活用」、「シク活用」に分けて、次の大意が示されています。

 

1.<形容詞ク活用>

味がよい、美味しい、また抜かりがない、あるいは都合がよい、さらには間の抜けているさま、など。

 

2.<形容詞シク活用>

うるわしい、すばらしい、また味がよい、など。

 

2は用例に乏しいとなっていますが、例外的に「うまし国」、という用例があり、「うまし+体言」の形から、上代におけるシク活用の用例を推定することが出来る、とあります。

(以上、小学館『古語大辞典』より)  

 

詳しくご存じの方には言わずもがなのことですが、「ク活用」は、「高し」など、連用形で「高“く”」、連体形で「高“き”」となる、活用の種類です。一方「シク活用」は、「うつくし」など、連用形が「うつく“しく”」、連体形が「うつく“しき”」となる活用です。形容詞の活用はこの二種類で、見分けるのには、本活用(活用表の右側、「カリ活用」でない方)の連用形を見れば良いのです。

 

また、「シク活用」の連体形、という、平安時代の文法をもとにした「文語文法」の決まりと上記の分類に従うと、「うるわしい国」は「“うましき”国」となりそうですが、上代(奈良時代まで)は平安時代のようには言葉の用い方が確立されておらず(仮名文字も当然ありません)、形容詞の語幹がそのままあとの言葉を修飾する例が多くあります。その一例として、「うまし国」も、挙げられているのです。

 

当サロン「美し言の葉」の「美し」(うまし)は、この「うまし+体言」に拠るもので、うつくしい、すばらしい、の意味であります。

 

次に「言の葉」(ことのは)ですが、文字通り「言葉」の意です。他に詩歌そのものを指したり、ひとの噂、などの意もあるようです。平安時代、上品な言語表現を指す雅語であったようで、漢文訓読体には用いられなかったようです。『古今集仮名序』に、「やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける」と書かれているのを、ご記憶の方も多いでしょう。 

 

これらを踏まえて、当サロン「美し言の葉」では、詩歌を中心に、うつくしい、すばらしい言葉を用いた韻文や散文を鑑賞・考察・検証し、また石井綾乃・小田原漂情両名が自作の短歌や散文をも紹介することで、自身もうつくしい、すばらしい言葉の世界に思い切り取り組んでみよう、という考えであります。

 

ほか、石井綾乃が短歌添削を担当します。お送りいただいた短歌に適切な添削を加え、短歌の世界に誘(いざな)います。また歌会(短歌会)も開催し、参加された皆さんが実際に言葉を用い、ご自身で考え、推敲することと、石井綾乃・小田原漂情による歌会でのアドバイス、さらに相互批評を通して、「うつくしい日本語」による作品を、切磋琢磨しつつ共に作っていきたいと考えます。

 

石井綾乃の短歌鑑賞のページのほか、歌人・作家の小田原漂情の長年の蓄積によるこなれた文学鑑賞・検証の世界もお楽しみください。また、両名の著書も販売いたします。「歌集・小説・エッセイ販売のご案内」のページにも、ぜひお目通し下さい。

 

最後に石井綾乃によるブログ「お茶のひととき」。さまざまな短歌を一首引いて味わい、ほっと一息つけるように、歌会の失敗談や実作の苦労などなど、こぼれ話を不定期に掲載していきたいと思います。

 

 文学さろん「美し言の葉」~うましことのは~ を、どうぞ長くお楽しみ下さいますよう。

                           石井綾乃 小田原漂情