お茶のひととき 24

ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば声も立てなくくづをれて伏す

 

                               宮柊二

                           『山西省』

宮柊二氏の第二歌集『山西省』について、まず新潮文庫『宮柊二自選歌集』の中で、宮氏が書かれた文章を引用させていただく。

(二十七歳から三十一歳までの作品。日華事変から太平洋戦争にかけて、一兵士として大陸に戦つたときの作品が主となつている。戦争の悲惨は胸を衝いたが、又、たたかふ兵隊に現はれてくる人間といふものの深さ立派さにも目を瞠つた。それは敵味方に対して同じだつた。わたしは心を引緊めて立派な兵隊でありたいと願つたり、事実、戦ひの中で死ぬだらうと思つたりしてゐた。わたしを取り囲んだのは運命だつたが、しかし運命に易々と従つたといふだけの感じではない。)

 

この作品には多くのことは記さない。ただ、国のために、兵士にならざるを得ず、戦いでひとを傷つける、あるいは殺めることが、その本人の一生にどんな翳をもたらし、逃れ得ぬ禍根を残すものなのか、そのことに、すべての国民は(もちろんわたくしも含め)、思いをいたさなくてはならないのではないだろうか。況や為政者をや。

そのことで負った傷は身体だけのものではもちろんない。心の深いところまで、その傷は及ぶのだ。平和な時代に生を享けたわたくしだが、身近にその苦しみを負っているひとが、いた。

繰り返すまい。すべての戦いにわたくしはそう思う。(綾乃)