お茶のひととき 17

ただ一度生れ来しなり「さくらさくら」歌ふベラフォンテも我も悲しき

 

                                     島田修二

 

                                        『花火の星』

 

ベラフォンテは1927年生まれのアメリカ合衆国の歌手。「さくらさくら」は日本の有名な唱歌だが、「さくら」という花は、ともすれば、大戦末期の特別攻撃隊のイメージも伴うのではないか(海軍で、陸攻機に吊り下げられ、敵艦隊の近くで切り離されて体当たりをする目的だけのために造られた、帰還はおろか不時着するための車輪すら持たないロケット機は、「桜花」と名づけられた)。昭和38年の歌集『花火の星』は、戦後のものではあるが、戦時中、海軍兵学校生徒として、広島県江田島で原爆を目撃した島田修二氏にとって、戦争の体験は精神に大きな翳を落とすものであったと考えられる。かつて敵国だった国の歌手、ベラフォンテの歌う「さくらさくら」を聴くとき、敵も味方もなく、ただ一度生れてきた「人間」として、ベラフォンテも作者も大きな悲しみを抱く、ということではないだろうか。

 

この歌も件の学習塾で習った歌。長いこと初句、二句は忘れていて、三句以降を強烈に記憶していた。もちろんベラフォンテがいかなる歌手か、インターネットもない時代に知る由もなかったが、なぜかベルカント唱法で唄い上げられる「さくらさくら」をイメージし、それが「悲しい」とはなんという切なさだろう、と子供ごころに感動したものである。実際のハリー・ベラフォンテ氏は世界的ヒット曲「バナナ・ボート」に代表されるポップな歌手だ。そのベラフォンテ氏が歌う「さくらさくら」・・・。「ただ一度生れ来しなり」がガツンと一首全体を摑んでいる。

(綾乃)